日本財団 図書館


 

持っている時間領域の情報は完全に失われてしまう。従って、原信号の周波数特性の時間的推移を調べるためには、前項で表したように原波形を一定の区間で切り出してフーリエ変換を施し、スペクトルアレイの形式で表現するしか方法がない。この欠点を補うのがウェーブレット解析法である。特に、脳波のように、比較的周波数の高い信号が周波数特性、振幅特性を変化させながら、緩やかに時間推移する現象の解析には適した方法であると考えられる。
今、時刻をtとし、解析すべき時系列データをx(t)とするとき、x(t)のウェーブレット変換は、

065-1.gif

で定義される。ここに、W(t)はanalyzing waveletと呼ばれる局所的に定義される関数で、

065-2.gif

の関係を満たしているとする。aは、ウェーブレットの周期に関するパラメター、τは時間の推移(時間遅れ)を表現するパラメターである。この変換の意味は、x(t)とw(t)の相関を周期aπを変化させながら求めることにより、原信号の時間領域、周波数領域の情報を得ることが可能になる。W(t)には、脳波の性質を考慮して正弦波の振幅がガウス分布となる奇関数

065-3.gif

を用いる。
図2.2.3−15に、安静状態および動揺暴露時の頭頂部(Cz)における脳波のウェーブレット解析の例を示す。図は、時・空間領域における相関の強さの等高線図の形で表されており、負の相関の領域の等高線は省いてある。また、横軸は時間を表し、縦軸は周期の逆数に比例している。図の縦軸に沿って得られる曲線は周波数領域のスペクトル密度に相当している。
以上のように、ウェーブレット解析の手法は脳波の解析には適していると考えられるが、この解析法の有効性は、動揺暴露時間の全体に亘った解析を実行することによって確かめることができる。しかし、解析時間、コンピュータの必要メモリーが極めて大きくなるため、現在までには行えていない。

 

V)脳波のマッピング
頭部の表皮に貼付された電極から得られる活動電位に種々の処理を施した後の信号(瞬間的な活動電位、スペクトルの平均パワー等)の頭皮上における分布を2次元的に補間して表す方法が脳波のマッピングである。
瞬時の活動電位の計測結果を用いてマッピングを行うことによって、脳電位の頭皮上2次元トポグラフィーを得ることができ、大脳皮質のどの部分で刺激による分極が起こっているかを知ることが可能であると言われる。酔いの発症過程における心理反応の影響を調べる上で必要となる解析手法であると考えられる。
脳波スペクトルの平均パワーのマッピングによって、酔いの発症過程における活動電位の周波数特性を2次元的に捉えることができると同時に、その時間的変化をも知ることが可能となる。動揺暴露によって酔いを発症した被験者、変化のなかった被験者および逆に気分が良くなったと答えた被験者

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION